福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

1 / 2

身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

見殺し Vol.2

運転が下手な谷茂の助手席に座っていると、清美の集中力は削がれ、なかなか考えがまとまらないでいた。意味もなく谷茂に怒りが沸いてきたが、気を取り直してもう一度整理してみる。清には完璧なアリバイがあった。妻の死亡時刻には大阪のビジネスホテルに宿泊していたし、メ-ルで清の顔写真を送りフロントマンに確認させている。出棺時に遺品を入れるのは特別な事ではない。誰もが皆、死者を弔う時に行なう儀式だ。清美は自分の読み筋が間違っているのを悟った。何気なくバックに手を突っ込んで、押収した法子の携帯を探り当てた清美は、谷茂に振りかざした。

「普通、夫ならこういうの必要としない?故人の残した記録よ。ところがあの男、熊のぬいぐるみなんかを必要とした」

谷茂は清美が差し出した携帯を見ても、興味を示さない。そういう態度が気に食わなかった。

「どう思うか、聞いているのよ」

変化した清美の口調に、谷茂はビクンとなりながら反応した。

「ぬいぐるみに共通の思い出があったんじゃないでしょうか。夫として妻の仕事には興味が無かった。それで・・・」

確かに手帳に記載されていたのは、仕事関係の内容ばかりで、一行たりとも夫の事には触れられていなかった。 清美は何気なく携帯の液晶に目を落としてハッとなった。押収した以降に着信していたのだ。着信履歴を何度も確認する。電話が掛けられてきたのは今日だ。時刻は深夜、零時四十七分と表示されている。氏名は無く相手先の番号のみが表示されているところから、携帯に登録されていない者からだ。

「マナ-モ-ドにしてあるから、気付かなかったんだ。03-5330-××××って、誰だろう」

手帳のアドレスを確認するが該当者はいない。

「5330って、中野界隈じゃないですか。電話掛けてきた人、死んだ事、知らなかったんですね」

「中野界隈って、当然、東中野も含まれるわね」

清美の脳裏に、ある人物の存在が再浮上した。署に戻って記録のチェックを行ない、NTTにも再度、確認して、それは確信に至った。法子の死後、携帯に掛けてきた人物は今井源三だったのだ。身元不明の少女だけでなく、福家法子にも関係していた。現時点では、事故死と断定されたものを覆すだけの材料には至っていない。単純に引っ掛かる。ただそれだけだ。もし源三が二人の死に関与しているとなれば、連続殺人事件として、当然、本庁が乗り出してくる。そうなると根本的に初動捜査の在り方が問われかねない。それには確固たる物証を掴む必要があった。決して見過ごしてはならない何かが、清美を突き動かそうとしていた。

二見課長にどう切り出そうかと思案しているところに、警視庁捜査一課強行犯捜査係の係長、美濃部の訪問があった。美濃部から暫く説明を受けた二見課長は深刻な表情になっていった。清美は咄嗟に「何かあったな」と悟った。
美濃部とは清美が捜査員になりたての頃、管内で起こった殺人事件の合同捜査で仕事をした事があったが、出来れば二度と会いたくない人物だった。忘れようとしても忘れられないヘビ-な過去を嫌でも思い出してしまうからだ。

「本庁がわざわざ来られるなんて、何か重要な案件ですか」

清美は久しぶりに再開する美濃部に敬意を込めたつもりだった。ところが美濃部はまるで汚いものでも見下すような目付きを向けてきた。

「丸尾教授を知ってるな」

唐突な質問だった。相手の意図が見えない。二見に視線を送るが、拒絶しているのがひしひしと伝わってくる。

「検死解剖でお世話になっていますから。つい先日もお会いしたばかりです」

「そういう事じゃない。個人的な付き合いがあるのかと聞いているんだ」

「どういう意味ですか?プライベイトに関与してくるのは失礼じゃないですか。何を勘繰られているのか知りませんけど、答える必要はないでしょう」

清美は知らぬ内に声を粗げていた。刑事課の捜査員達が遠巻きに、二人の遣り取りを興味深げに眺めている。美濃部はわざと聞こえるように声を響かせた。

「そういう訳にはいかない、中川警部補。丸尾教授から娘の相談を受けていたんじゃないのか。遺書にあんたの事が書かれていたぞ。説明してもらおうか」

Vol.3へつづく

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