福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

1 / 2

身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

協力者 Vol.15

源三がポツリと発した言葉は、清美を覚醒させるには十分だった。警察関係者の清美ですら、噂でしか聞いたことがなかったが、氏名は愚か、存在まで明らかにされていない公安部所属の人間がいるらしい。常に単独で行動し、対象を監視し続けるのが任務だが、時には別の職業に就き、架空の人物に成り済まして潜入したりもする。

「法子は強かな女だ。清の存在に感づいていたかもしれん。敵になる相手に莫大な金を生み出すネタを、見す見す手渡すはずがない。必ず何処かに隠し持っていたはずだ。たとえ渡していたとしても、コピ-を取って置くのは初歩の初歩だろ」

「源三とマスタ-は公にして、何をやろうって言うの?時間稼ぎって、意味が解からない。もっと解かるように説明してくれない」

「警察の人間はこれだから困る。自分達こそが真実を握っている立場だからって、マスコミを軽くみてやがる。こんな面白いネタ、たとえ一部分でも公表すれば、他社が馬鹿みたいに飛び付くだろう。昔と違って情報を全て国が管理するのは限界が来ている。マスコミが騒げば騒ぐ程、真実はいやが上にも、剥き出しになって来るじゃないか。情報こそが最強の武器だ。そうなれば清達は簡単に揉み消して回れなくなる」

「ミチエの案件は警察内部でも極秘扱いになっているのよ。簡単にいくはずないわ」

「少なくとも、清の方から姿を現わす確立は、これで高まるやろ。マスタ-、ギリギリまでこの件オフレコで頼むわ。即効で原稿、用意しとくから。一番率のええ出所、当たっといて」

そう言った途端、源三はテ-ブルにうつ伏せになって、寝入ってしまった。源三の言う通り、このまま何の当ても無く清を捜し出そうとしても、徒労に終わるだけだろう。あぶり出すのが一番効果的なのも確かだ。微かにいびきが響いてきた。マスタ-は息子を見つめる父親のような目付きをした。

「こいつも不運なヤロ-でな。なかなか芽が出ないまんま、もう良いおっさんだ。本人は女房の精神を破壊して精神病院に送り込んだと、思い込んでいるみたいだけど、自分も破壊された事を認めようともしない。良い意味で純粋だが、現実を直視出来ない馬鹿だ。源三の女房はね、俗に言う予知能力があってね。当時、こいつらライタ-の駆け出しみたいな連中がつるんで、その手のネタを研究していたんだ。バブル全盛期、サブ・カルチャ-が天下を取った頃だな。占いブ-ムもあって、女房はちょっとした予言者としてブレイクしたし、事実、こっちの方も相当、儲かったらしい」

マスタ-が右手の親指と人差指でリングを作って、清美の目の前に差し出してきた。

「ところが予言ってやつは、まあ俺から言わせれば、まぐれ当りと言うか、後からこじ付けたものが結構多いからな。ところが、そういう連中が現に稼いでいたし、進化して新興宗教の団体が創られもした。先が見えない世の中だ。こむずかしい宗教より、よっぽど解かりやすい。これがまた若いのがわんさか集まって・・・。源三達は少し違っていたかな。女房の予言はともかく当たったから。ところが常にそんな能力を使い続けちゃあ、持つ訳が無い。結局、女房はドラッグに走るしか無かった。L系の強力なやつを大量にやり続けた。女房はどんどんのめり込んでいったそうだ。そのほうが楽に予言が出来たらしい。俺も視てもらったけど、ともかく的確だった。おかげで胃癌を早期発見できて、今も生きている。ところが、強力なやつをやり続けると当然、肉体も精神も崩壊していくさ。良いことなんて一つもない。その頃、こいつらの組織も全国規模に拡大していて、既に源三ですらブレ-キを掛けられない状態になっていたんだろう。常に信者達が新しい予言を待っていたからな。遂には、女房の精神が崩壊し、末期は目も当てられない状態だったらしい。女房が隔離され、こいつらの組織はあっという間に解体した。源三が責任を感じるのは当然といえば当然だが、自分自身もそれ以来パニック障害を抱えて、全く使いもんにならね-んだ。何度も医者に行くよう勧めたんだが、結局、酒に溺れて今はこのざまだ」

いびきのト-ンが少し変わったように、清美には聞こえた。源三の過去は、どんなに消去しようとしても、消去しきれるものではない。拭い切れない過去、それは過ちと言ってもいいだろう。全く次元は違うが、互いに背負い込んだ過ちは、どうしょうもなく大きすぎる。源三に対して清美は、急速に親近感を覚えていった。同情とは違う同志のような。

潜伏 Vol.1へつづく

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